人工知能の研究分野と歴史・展望

作田 誠

目次

1  人工知能の研究分野

人工知能は英語では Artificial Intelligence : AI と言われる。

人工知能分野の研究は、人間の思考をコンピュータに模倣させる、あるいはコンピュータに人間の思考を凌駕させるソフトウェアを開発することを究極の目標としている。 しかし現実にはあらゆることにおいて人間と同等に考えられるコンピュータを開発することは難しく、対象を限定して特定領域において人間と同等あるいはそれ以上のソフトウェアを作ることが当座の目標となっている。 例えばチェスをコンピュータでプレイさせることにおいては1997年世界チャンピオンを破るまでに至っている。

知能システムは一般に

の三要素が組み合わされて働くと言える。人工知能は最初は(B)の推論・判断の研究から始まり、その後(A)の認識についての研究も進んできた。
(C)の行動も含めた総合的な知能システムの研究は今後の課題と言える。

人工知能研究は認知心理学、神経科学、言語学など広い分野と結びついている。

人工知能の研究ではさまざまな研究要素があり、人工知能研究に付随して、種々の研究分野が発展・独立していった。 例えば、自然言語処理、画像認識、音声認識、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、等々である。

2  人工知能の歴史

1936年チューリングマシン
単純化された計算機モデル
1946年フォン・ノイマン プログラム内蔵方式の逐次実行型コンピュータ (ノイマン型)
1946年初(二番目?)のデジタルコンピュータ ENIAC (エニアック)
1949年初の実用的なノイマン型コンピュータ EDSAC (エドサック)
1950年チューリングテスト
人間試験官ともう一人の人間とコンピュータがそれぞれ別々の部屋に入る。
それぞれの部屋の間はテレタイプによって結ばれている。
試験官は質問を人間とコンピュータに送る。
質問を受けた人間とコンピュータはそれぞれ試験官に回答する。
一連の質問の後、試験官がどちらが人間でどちらがコンピュータであるかを識別できなかったとしたら、そのコンピュータには知能があるとみなす。
シャノン チェスプログラムの研究
「チェスのような複雑なゲームをマスターできるコンピュータなら知能があるとみなせる」
1956年ダートマス会議
マッカーシー 「人工知能 (Artificial Intelligence)」という用語を発表
ニューウェル、ショウ、サイモン AIプログラム Logic Theorist
1957年マッカーシー 記号処理用プログラミング言語 LISP を考案
ニューウェル、ショウ、サイモン GPS (General problem Solver)
あまりに一般的過ぎて比較的簡単な問題すら解けなかった
1965年ファイゲンバウム 質量分析データから化合物の分子構造を推定 DENDRAL 初のエキスパートシステム
1970年カルメラウアー、コワルスキー 論理型プログラミング言語 Prolog を考案
1972年感染症の診断と治療コンサルティング MYCIN 生成規則を使った初の実用エキスパートシステム
1972年ウィノグラード 自然言語処理 SHRDLU 「ブロックの世界」で人間と会話できる
エキスパートシステムの実用化
知識工学 (knowledge engineering)
ニューラルネットワーク
1980年代後半から活発化
進化的計算手法
遺伝的アルゴリズム
1960年代終り John H.Hollandらの研究が基礎となる
1980年代後半から活発化
1990年Koza 遺伝的プログラミング
強化学習
1997年チェス Deep Blue が世界チャンピオン Kasparov を破る
知的エージェント (独立で行動し、状況の変化を学習して適応するソフトウェアシステム)
データマイニング (多量のデータから意味のある知識を見つけ出す技術)

※ 実世界の問題は単にアルゴリズム (手続き) を記述し動作させるだけでは実際上解決できないものが多い。近年、生物の働きにヒントを得た研究分野が多く開拓され、機械学習や最適化に利用されている。

ニューラルネットワーク
神経の働きをモデル化して実際の問題に適用できるようにしたもの。
遺伝的アルゴリスム
モデル化した遺伝子を用いて世代交代を行い、進化の過程をシミュレートするもの。
遺伝的プログラミング
遺伝的アルゴリスムの遺伝子をデータ構造やプログラムを表現できる形に拡張したもの。 進化によりデータ構造やプログラムを洗練させることができる。

※ その他の機械学習の手法

強化学習
報酬を評価する繰り返しにより行動を改善していく手法。 ロボットの行動獲得などに利用される。

2.1 近年の動向

2.1.1 深層学習

深層学習 (deep learning) は、ニューラルネットワークを多層にして表現能力を高めたものである。
従来、多層のニューラルネットワークは収束性が悪かったが、工夫により実用レベルになった。画像認識、ゲーム等に応用され、成果をあげている。

ゲームの分野での画期的成功例を下に示す。

コンピュータ囲碁 AlphaGo

深層学習と強化学習の一種であるQ学習を組み合わせることによって優れた評価関数を用意し、さらにモンテカルロ木探索も利用する AlphaGo が2015年10月にヨーロッパ王者のプロ棋士を負かす。
その後2016年3月に、韓国すなわち世界のトップ棋士であるイ・セドルと5回対戦し、4勝1敗でAlphaGoが圧倒し、驚くべきことに囲碁でもコンピュータが人間レベルを超えた事実をつきつけられた。2017年5月には、世界最強とされる中国の柯潔 (か けつ) 九段と3回対戦し、3勝0敗と圧倒した。

2.1.2 データサイエンスとの連携

様々なデータを科学的手法により処理し有意義な結果や知識を引き出す学問分野を データサイエンス (data science) と言うが、数学・統計学・情報工学と合わせ、機械学習等の人工知能手法が多く利用されるようになった。
最近では、まとめて、「AIデータサイエンス」というくくりもされるようになっているほど活発な利用がある分野である。

産業界でも、AIとデータサイエンスを組み合わせて成果を上げる データサイエンティスト (data scientist) 人材の需要が高まっている。

3  人工知能研究の今後の展望

人工知能の研究は今後一層広がりを増すとともに、知的エージェント、データマイニングなど先端的分野での研究が進んでいくと思われる。

AlphaGoで驚きをもって示された深層学習の成功により、今後多くの分野で深層学習が応用され、より知的な振る舞いが実現されるようになって行くだろう。データサイエンスの領域でも大いに利用されていくと予想される。

また、ロボティクス研究と関り実際のロボットの知能部分のソフトウェア研究が活発になり、(A) 認識、(B) 推論・判断、(C) 行動 を総合した、より一般的な分野に適応できる知能ソフトウェア、さらにハードウェアと統合した知能ロボットの研究へと発展していくことが期待される。


課題1 人工知能の歴史・展望 (一般課題)

下に示す用語を全て使って、必要なら各用語について調べ、人工知能の歴史・今後の展望についてまとめなさい。

ダートマス会議、MYCIN、エキスパートシステム、SHRDLU、チェス、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリスム、遺伝的プログラミング、強化学習、Alpha Go、Deep Blue、深層学習、知能ロボット、データサイエンス

サクラエディタなどを使って、テキストファイル (拡張子 txt) として、ファイルの先頭に「学籍番号・氏名」と「課題番号 課題名」を入れ、その後に400〜600字の範囲でまとめなさい。
※ 字数はタイトルや問題文を除いた本文のみでカウントすること。Wordの文字カウントを使う場合、「スペースを含めない文字数」で範囲に収めること。